人と向き合うことは、自分と向き合うことでもあります。誰かと話していて、価値観の違いに戸惑ったり、自分の「普通」が通じない瞬間に戸惑うことは少なくありません。
そんな時、私たちは静かに心を整えてくれる物語を必要とします。寺地はるなさんの『川のほとりに立つ者は』は、まさにその一冊です。
大きな事件が起きるわけではありません。けれど、人の言葉や沈黙の奥に潜む“姿”を照らし出し、読む人の価値観に静かに変化をもたらします。
川のほとりに立つ者は(寺地はるな)作品概要

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| タイトル | 川のほとりに立つ者は |
| 著者 | 寺地はるな |
| 出版社 / レーベル | 双葉社 |
| 発売年 | 2022年10月20日 |
| ジャンル | 文芸作品 |
あらすじ
主人公は大阪のカフェ店長・原田清瀬。恋人である松木圭太との間に “隠し事” があったことで、ふたりの関係はぎくしゃくしていた。
ある日、圭太が事故で意識不明の重体となり、彼の部屋で隠されていたノートを清瀬が見つける。そこに記されていたものは、圭太の「隠された真実」と、彼が背負ってきた世界だった。
清瀬は自分の知っていた“彼の姿”と、ノートの中の“彼の本当”のギャップに衝撃を受け、自らの偏見や価値観と向き合うことになる。
この作品が問いかける「価値観」とは
人は皆、異なる背景や経験をもって生きています。作品には、外からは見えづらい困難を抱える人物も登場します。私たちが無意識に抱く固定観念が、誰かの生きづらさにつながることもある。
その事実に気づかされる描写がいくつもあります。近い存在であっても、すべてを理解することはできません。
けれど、理解できない部分ごと受け止めようとする姿勢は持てる。その姿勢こそが「人と向き合う」ということなのだと、この物語は静かに示します。
読んで感じたこと
川辺に立つような感覚が、ずっと続く作品でした。水面に映る景色が揺れるように、人物たちの言葉の奥にも揺れがあり、読み進めるほど、自分の中の価値観も少しずつ揺さぶられます。
特に印象に残ったのは、相手の行動の裏にどんな事情があったのかを、丁寧に想像してみることその大切さです。
表面的な判断で人を測ることは簡単ですが、そこにある苦悩や背景に思いを馳せることは、難しい。けれど、それをしようとするだけで、人との距離感は大きく変わるのだと思いました。
こんな人におすすめ
- 自分の価値観を見直したい時
- 他人との距離をうまく取れない時
- 人間関係に疲れ、言葉の裏側を考える余裕がなくなった時
- 静かな読書で気持ちを整えたい夜
派手さはないのに、深く沁みる物語です。読後には、景色の見え方が少し変わります。
おわりに

『川のほとりに立つ者は』は、他人を理解する難しさと、自分の価値観の狭さに気づかせてくれる一冊です。登場人物たちの慎ましい会話と沈黙の中に、多くの気づきが潜んでいます。
価値観を変えたい時。誰かの“本当”に近づきたい時。この物語が静かに寄り添ってくれるはずです。
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